このゲームで目指したのは、練習ゲームではありません。本当の意味で、遊んで楽しいゲームにしたいと思いました。ゲームとして遊んでいる間にタイピングをしている。そのくらい、練習を練習だと感じさせないものにしたかったです。タイピングしている時間そのものを遊びにするために設計しています。ゲームを楽しむことを先に置き、上達はその先にあれば嬉しい、という順番です。この順番はかなり大切にしています。楽しく遊んだ結果としてタイピングの量が増える形にしたいからです。
タイピングゲームをやり込んでいると、同じお題に何度も出会います。回数を重ねるほど、そのお題には慣れていきます。同じものを繰り返し練習して、速く打てるようになること自体は悪くありません。むしろ練習だけを考えれば、繰り返すことには筋が通っています。何度も打ったお題を前より速く打てるようになることも、練習の成果です。ただ、長く続けるほど、用意された特定のお題への慣れが強くなります。幅広いお題へ触れているつもりでも、やり込んだ先では、特定のお題を覚えたことによる速さが混ざってきます。自分はこれを、お題への過適応に近いものだと考えています。
過適応そのものを問題にしたいわけではありません。特定のお題を速く打てるようになるのも、遊び方の一つです。気になったのは、やり過ぎた先で飽きが来ることでした。同じお題をまた打つことが分かった状態で、それでも何度も繰り返す。そこに飽きが来るのは自然です。タイピングの練習として正しくても、ゲームとして楽しみ続けられるとは限りません。本当の意味で楽しめるものを作ろうとすると、この固定化は無視できない問題でした。
同じ問題で自己ベストを更新する遊び方にも面白さがあります。ただ、自分が作りたいものでは、遊ぶたびに通る駅が変わり、まだ見ていない駅名が次のお題として出てくる余地を残したかったのです。駅名を無作為に並べるだけなら、その数を増やすのは簡単です。実際の路線に沿って駅が現れ、乗換駅で次の方向を選ぶから、次のお題を選ぶ行為そのものが遊びになります。
駅名を選んだのは、お題そのものにかなり大きな幅を持たせようと思ったからです。特定の文章を何度も繰り返す形から離れ、数多くの駅名をタイピングのお題として使えます。駅名は一つのテーマとしてまとまっていながら、お題としての数を多く持てます。お題を覚えて速く打てるようになることだけを中心に置かず、次にどの駅名を打つのかという変化をゲームの中へ残せると思いました。
お題の種類が多ければ、それだけでゲームが面白くなるわけではありません。それでも、同じお題を覚えて繰り返す状態から離れるためには、まず打つもの自体に幅が必要です。駅名を選んだことで、タイピング練習に使う例文を増やすという発想からも離れられました。文章の一覧をどれだけ用意するかという考えから、数多くの駅名をどうゲームの中で打たせるかという考えに変わりました。
ところが、駅名を選ぶだけでは、最初に気になっていた問題を解決できません。普通に一つの路線をタイプさせると、やはりお題が固定化します。駅名の種類を増やしても、路線をそのままタイプするだけなら、別の形で同じ問題に直面します。個々の駅名には幅があっても、一つの路線として出てくる駅名は固定されています。駅名を使った時点で問題が解決したと思ってしまうと、結局は同じ路線のお題へ過適応していきます。駅名という題材だけでは、多様性は作り切れませんでした。
ここで乗り換えを使うことにしました。路線から路線へ乗り換えながらタイピングできるようにすることで、お題に多様性を持たせようと思いました。一つの路線をそのまま打つ形から離れれば、駅名の出方にも変化を持たせられます。駅名によってお題の幅を持たせ、乗り換えによってその出方にも幅を持たせる。駅名と乗り換えを組み合わせることで、同じ内容を覚えて繰り返すだけのゲームから離れようとしました。駅名の数が多いことを、実際に遊ぶときのお題の多様さへ繋げるためには、乗り換えが必要でした。
駅名は文字の長さも音の並びも揃っていません。画面には漢字の駅名が出ますが、打つのはその駅の読みです。「きょ」のように一つの音を複数のキーで入力する場所もあれば、短い読みがすぐ終わる場所もあります。特定の文章を反復する練習とは違い、路線を進むうちに入力の長さやリズムが変わります。駅名を題材にしたかったのは、収録数の大きさだけでなく、実際の一駅ごとに手の動きが変わるからでもあります。
駅名だけを大量に用意しても、結局いつも同じ路線を選べば同じ順番で打つことになります。そこまで含めて遊び方を変えるには、途中で進行方向を選び直せることが必要でした。収録した語の種類と、一人が遊んだときに出会う語の種類を分けて考えています。
今日は知っている駅の周りを走り、次は乗り換えて知らない地域へ向かう。同じ全国の駅データでも、どこから始めてどこで曲がるかで手元に出る文字が変わります。駅名が豊富だという説明より、その変化を遊んでいる途中に作れることを重く見ています。
もちろん、これで毎回全てが変わるわけではありません。駅名と乗り換えを使っても、お題の固定化を完全になくせるわけではありません。できたのは、タイピングするお題の幅を広げるところまでです。完全なアイデアではありません。
例えば同じ駅から出ても、途中で別の路線へ乗り換えれば、その先に現れる駅名は変わります。逆に、同じ区間を何度も走れば、その区間の名前は繰り返し出ます。全く同じお題を二度と見ない仕組みではありません。全国に駅名が多いことと、一回のプレイで異なるお題に触れられることを混同しないよう、乗り換えを遊びの中に入れました。
不完全なのは、多様性の部分だけでもありません。既存のタイピングゲームの多くは、実用的な言葉を打たせることに力を入れています。タイピングするお題を考えれば、これは妥当です。練習で打った言葉を普段の入力でも使うなら、そのお題には分かりやすい実用性があります。駅名を速く打てるようになっても、それが実用的なことはあまりありません。駅名という選択には、お題の幅を持たせられる一方で、練習する言葉としての実用性が低いという弱さがあります。実用的な練習を考えれば、既存のゲームがお題に実用語を選ぶ方が自然です。
それでも駅名を選んだのは、実用的なタイピング練習を最優先にしたゲームを作ろうとしていないからです。遊ぶこと自体を目的にできるゲームを作りたい。お題に飽きず、また遊びたいと思えることを先に置き、その中にタイピングがある形を目指しました。そのため、お題の実用性より、繰り返し遊んでも飽きにくい幅を優先しました。タイピングゲームだから実用語を打たせる、と考えると駅名は外れた選択です。でも、練習ゲームではなく楽しめるゲームを作る、という出発点から考えると、自分が避けたかった飽きに向き合える題材でした。駅名と乗り換えを使ったゲームが本当に楽しいなら、自分にとってはその方が大切です。
タイピングの上達には、練習量もそれなりに重要です。ただ、このゲームでは楽しめることを先に置いています。初心者でもタイピングを楽しめるゲームになり、遊んだ結果として少しでも上達に繋がってくれたら嬉しいです。
駅名と乗り換えで出題の幅を作れても、打つ途中でミスをした瞬間に遊びが途切れるなら、電車を走らせる感覚は残りません。お題を何にするかと同じくらい、速く打とうとしたときにゲームがどう応えるかを考えました。
「電車でタイピング」では、このミスのペナルティをかなり緩くしています。
タイピングゲームなのだから、正確に打つことを厳しく求める方が自然に見えるかもしれません。それでも緩くしたのは、自分がゲームをやっていて、正確さを優先することと、タイピングをかなり速くすることは、同じ方向を向いていないと感じたからです。ある程度までタイピングを伸ばすなら、既存のルールは向いています。キーを正しく打てるようになり、ミスを減らしながら速度を上げていく。正確さを上げればスコアも上がります。そこそこタイピングができるところまでなら、このルールで伸ばしていけます。
けれど、そこからさらに速度を上げようとすると、正確さを守ることが速さの上限にもなってきます。今の自分が正確に打てる範囲だけで速度を上げようとしても、その範囲からはなかなか出られません。正確に打てる速度を選び続けているので、当たり前と言えば当たり前です。かなり速くなるには、一度、正確さを多少犠牲にしてでも速く打つ必要がありました。まだ安定して打てない速度へ先に入るので、ミスは増えます。既存のタイピングゲームであれば、スコアが落ちる打ち方です。ゲームの評価だけを見れば、前より悪くなったようにも見えます。それでも、自分の感覚では、速さを伸ばすにはこちらの順番の方がよかったのです。
速く打てるようになると、体内時間の感覚が遅くなります。以前は速すぎると感じていた入力が、同じようには速く感じられなくなる。速度を先に上げた直後は、正確さが落ちます。ただ、その速度で打てるようになると、最初に感じていた速さが少しずつ普通のものになっていきます。すると、最初はミスが出ていた速度でも、正確に打てるようになります。速さを先に一段上へ動かし、そこへ正確さが追いついてくる。自分が実際にゲームをやっていて感じたのは、この順番でした。速さを先に上げることは、正確さを諦めることではありません。最初はミスが増えても、後からその速度に正確さを合わせていくための順番です。
ここで書いている「速さを先に上げると正確さが後からついてくる」は、私が遊んできた中での感覚です。誰でも同じ順番で上達すると証明した話ではありません。今の速度で確実に打つ練習が役立つ場面もあります。それでも、速さを試すたびに一時的なミスを大きく罰すると、ゲーム内では挑戦した回の評価が下がり続けます。自分のゲームでは、その試行錯誤を遊びの外へ追い出したくありませんでした。
実際の判定は、誤ったキーで先へ進めず、正しいキーを押すと続きを打てる形です。同じ文字で止まっている間に誤キーを何度押しても、その詰まりについてのミスと打鍵数は最初の一回だけ計上します。正しく一文字進んだ後にまた誤れば、新しいミスとして数えます。連打した分だけミス数が無限に増えるのを避けつつ、間違えた事実は記録します。ミスをした瞬間、コンボも切れます。
スコアから正確さを外したわけでもありません。通常の最終スコアはWPMに正確率の二乗を掛けます。例えばWPMが100で正確率が90%なら81、WPMが90で正確率が100%なら90です。同じWPMで比べれば、ミスの多い方が低くなります。「緩い」はミスの影響がないという意味ではなく、誤キー一回で走行を終わらせたり、詰まった箇所の連打をそのまま何回もの失点にしたりしない、という設計上の線引きです。WPMとスコアの説明にも計算の見方を載せています。
スコアには、数値とは別に「徒歩」「自転車」「各駅停車」「快速」「特急」などの段階名も付けています。五十点刻みで名前が変わり、上に進むほど鉄道や速さを連想する呼び方になります。これは現実の車両の最高速度を測ったものではなく、タイピング結果をゲームの世界へ戻すための呼び名です。駅名を打って電車を進めた結果が、数字だけで終わらないようにしています。最上位は千四百五十点からの「ドクターイエロー」で、そこを超えても段階名は同じです。
段階名まで含めると、正確率の意味も少し具体的になります。例えばWPMが三百の回は、正確率九十%ならスコア二百四十三点で「路面電車」です。同じ速さで九十五%まで上がれば二百七十・七五点になり、「各駅停車」へ変わります。一方で、速さを試して一時的に正確率が下がっても、打ち始めた速度を確かめるための回としては意味が残ります。スコアと段階名を見て前回と比べ、WPMと正確率を分けて見ると、何が変わったのかを読み取れます。
駅名ごとの条件も無視できません。「し」をshiで打つかsiで打つかだけでも、同じ読みを終えるまでの正打鍵数が変わります。長い読みの駅を一つ終える間に押したキーと、短い読みの駅を一つ終える間に押したキーも同じ数ではありません。そのため、スコアだけで一駅の難しさや土地ごとの攻略度を決める作りにはしていません。時間制の挑戦で競う数字と、アドベンチャーで駅を解放していく進捗は、それぞれ違う遊びの手掛かりです。
このゲームでWPMと呼ぶ値は、正しく受け付けたキー数を経過分数で割ったものです。英語の単語を何語打ったかという意味ではありません。駅名の読みが同じでも、使うローマ字の候補によって押すキーの数は変わります。別のゲームのWPMや、かな入力とローマ字入力の数値をそのまま横に並べるより、同じ入力方式で自分の変化を見た方が分かりやすいです。
「電車でタイピング」では、入力の速さによって電車のスピードが変わります。速く打てば電車も速くなり、速度を落とせば電車も遅くなります。タイピングの速度が、プレイ中の電車の動きとして返ってくるゲームです。速さは最後に出るスコアに加え、今走っている電車からも分かります。入力の速度を変えると、電車のスピードも変わる。その場で反応が返ってくるので、今より速く打ってみることが、そのままゲームの動きになります。少し無理をして速度を上げれば、ミスが出るかもしれません。それでも、入力が速くなったこと自体は電車のスピードへ返ってきます。
速さを試すなら、最終スコア一つだけを見ない方が自分の変化を分けて見られます。WPMが上がって正確率が下がった回は、速く打てる区間が増えた一方で、まだ安定していない箇所があると読めます。WPMが同じで正確率が上がった回は、今の速度を保つ精度が上がった回です。どちらも意味があります。速度と正確率を分けて見れば、単にスコアが低かったから失敗、と決めずに済みます。
山手線周回の60秒チャレンジと、120秒から始まる全国縦断では、競う内容も違います。全国縦断はミスなく一駅打ち切るたびに持ち時間が一秒増え、総時間の上限は600秒です。前者は通常のスコアを使い、後者は到達駅数を先に見て、同じ駅数なら正確率やWPMなどで順位を決めます。アドベンチャーで速く電車を走らせる感覚と、ランキングで残る数字は繋がっていますが、すべてのモードを一つの「速さ」だけで比較できるわけではありません。どの記録を伸ばしたいのかによって、見直す数字も変わります。
数字の大小には条件もあります。短い駅名が続く区間と長い読みが続く区間では、一駅の間に押すキー数が違います。ミスを一度した回でも、すぐに次のキーを正しく押せたのか、同じ文字で何度も止まったのかで、体感は違います。自分は速く電車を動かす感覚を残したかった一方で、プレイ後に出る正確率まで消すつもりはありませんでした。両方があるから、速さへ挑戦する余地と、どこで崩れたかを振り返る余地が残ります。
例えばWPM120でも正確率85%なら計算上のスコアは86.7で、WPM100かつ正確率95%なら90.25です。速度だけが高ければ必ず勝つ設計ではありません。自分が緩くしたのは、間違えた瞬間の遊びの流れです。結果の数字では、速さと正確さの両方を見ています。