画面に出た言葉を入力し、速さや正確さを数字で確認する。タイピング練習には、そういう一区切りがあります。「電車でタイピング」でもWPMやスコアを記録しますが、駅名を次々と消化する形にはしたくありませんでした。駅名を一つずつ打つことが、そのまま鉄道の旅になるようにしたかったのです。練習が進むことと、地図の上を進むことを同じ動きにする。電車を実際の地図の上で走らせたのは、このゲームの一番中心にある考えからでした。

キーボードで一文字正しく打つと、画面の中央にいる小さな電車が、次の駅へ向かって少し進みます。現在の駅名をどこまで打てたかという割合が、そのまま駅と駅の間の位置になります。短い駅名なら一打で大きく進み、長い駅名なら少しずつ進む。最後の文字を打ち切ると駅へ到着し、通ってきた区間が路線の色で地図に残ります。「駅名を一つずつ打つことが旅になる」という考えを画面にすると、自然にこの形になりました。電車は、駅名を打ち終わるまで待ってから動くのではありません。一文字ごとに動くので、今押したキーがそのまま車輪を前へ送ったように見えます。入力欄の中で一文字進んだという小さな変化が、地図の上では次の駅へ向かう動きになる。ゲームの内部では入力の進み具合を駅間に割り当てているだけですが、画面では指の動きと電車の動きが切れずに繋がります。駅名を打っている時間そのものが、移動中の時間になります。ここが大事でした。

もちろん、一打が現実の一定距離を表すわけではありません。短い駅間でも長い駅間でも、その駅名を打ち終えたところが到着点です。駅間の距離と問題文の長さは別にして、表示された駅名のうち正しく入力できた割合を、出発駅から到着駅までの位置へ重ねています。打ち間違えたときは先へ進まず、正しいキーが入るとまた動き出す。ここでは、駅名を打つ進み方と、路線を走る進み方を合わせています。

この動きは、プレイ画面に入る前から地図の上で続いています。初めてアドベンチャーを遊ぶときは、全国の収録駅から出発駅を一つ選びます。その駅が地図上の現在地になり、そこから乗れる路線と進行方向を地図の上で決めます。方向を確定すると、地図は選んだ場所へ寄り、そのまま駅名を打つ画面へ移ります。選択に使った地図と走行中の地図は、同じ現在地と同じ路線を見ています。さっき地図で選んだ線の上を、今度はキーボードで進むわけです。全国を遠くから見ていた画面が出発駅へ近付き、一文字目を打つ。そこから、選んだ方向へ電車が発車します。

実在の地図であることも、この繋がりには必要でした。このゲームのアドベンチャーモードでは、現在地から乗る路線と進行方向を選び、駅名を打って次の駅へ向かいます。到着した駅と通過した区間が解放され、そこからまた次の路線を選びます。「次はどの路線へ進むか」「地元からどこまで繋がるか」という目的は、駅と路線が本当にある場所に置かれているから意味を持ちます。地元の駅を出発点に選べば、最初は見慣れた範囲から始まり、路線を乗り継ぐたびに現在地が先へ移っていきます。全国の駅が単なる問題の一覧だったら、何問解いたかは増えても、今どこにいるのかは残りません。地図の上に現在地があることで、次に打つ駅名が、いま乗っている路線の次の駅になります。駅名は一つずつ見ると独立した言葉ですが、路線の上では前後の駅と繋がっています。どの駅名を次に打つかは、現在地と選んだ進行方向が決めます。出題の順番にも、場所の繋がりが残ります。ここは似ているようで、遊んでいるとかなり違います。

アドベンチャーでは、現在地から繋がっている路線を選び、その先の駅名を順番に打ちます。終点や乗換駅に着けば、そこで改めて方向を決める。実在する鉄道網をゲーム盤にしたのは、この「繋がっている」という性質を、そのまま練習を続ける理由に使いたかったからです。今日は一駅だけでも、その一駅は地図と進捗に残ります。次に遊ぶときは、前回の現在地からまた路線を選べます。少しずつ路線が伸びるので、終わり方にも続きがあります。

旅を進めるうちに、入力する言葉の方も勝手に変わっていきます。駅名は地域によって長さも読み方も違い、拗音や促音、長音を含む名前もあります。電車が次の土地へ進むと、さっきまでとは違う名前が出てきます。短い音が続く区間もあれば、一つの駅名を打ち切るまでに時間が掛かる区間もある。そのばらつきを消さず、路線を進む中で出会う形にしています。

地図は、現在地を示す背景であると同時に、それまでの入力を残す場所でもあります。まだ通っていない区間は暗い破線で見え、通った区間は路線の色に変わります。走った区間が増えるほど、暗い破線だった鉄道網へ路線の色が広がっていく。数字とは別に、どの辺りまで自分の手で進んだかが一枚の地図に残ります。次に開いたときは、その地図の途中からまた走れます。始めたばかりの地図を全国まで引いて見ると、色が付いた場所はまだ小さく、その先には未踏の路線が何本も続いています。今日どこまで練習したかと、次にどちらへ行けるかが同じ画面にあります。地図は進んだ結果を残し、そのまま次に遊び始めるための画面にもなります。

実際の地図を使うと決めたことで、駅を緯度と経度の点として置くだけでは足りなくなりました。ゲーム内の駅名、読み、路線内の隣接関係を組み立て、地図の線には国土数値情報の鉄道データを照合しています。駅と区間の対応を安全に確認できたところは実際の線形に近い曲線を使い、確認できないところは駅の代表座標同士を直線で結びます。画面に見えている線は測量精度の線路図ではありませんし、構内配線やトンネルの形まで再現するものでもありません。駅名に実在データを使うのと同じように、駅の位置と区間の形状も地図へ持たせています。どの駅がどの辺りにあり、隣の駅へどちらへ進むのかが、画面上の動きにも現れます。

一方で、実在する鉄道網をそのまま写せば全国を一続きに遊べるわけでもありません。離島や索道、独立した路線網など、物理的に離れたまとまりもあります。このゲームでは全国を進められるように、そうした場所へゲーム用の橋渡しを作る場合があります。近い駅同士の徒歩乗換も、決めた条件に合う組み合わせだけを接続しています。これは乗換案内ではなく、実在の駅と路線を材料にして、一つのゲーム盤として歩ける形へ整えたものです。現実の地理から得た接続と、全国へ進むために加えたゲーム用の接続は、同じものとして扱っていません。

プレイ中の画面では、電車を中央付近に置き、その周りの地図が進行に合わせて流れます。正しいキーを押すと、電車は直後の位置へ急に飛ばず、そこへ追い付くように少し滑らかに動きます。進んだところまで路線に色が付き、駅へ着くと小さな波紋が広がります。ミスをすると電車が赤く揺れる。入力したことが地図の側で起きたこととして返ってくるように、それぞれの動きを置いています。